後鳥羽伝説殺人事件  
一人旅の女性が古書店で見つけた一冊の本。彼女がその本を手にした時、“後鳥羽伝説”の地を舞台にした殺人劇の幕は切って落とされた!上司と対立し捜査を外された刑事の執念が名探偵・浅見光彦を登場させた記念作。芸備線三次駅で若い女の絞殺死体が発見された。被害者は“後鳥羽伝説”の地を訪ね終え、尾道から東京へまっすぐ帰る予定だった。その彼女がなぜ三次で殺されていたのか?彼女が大切そうに持っていたとされる緑色の布張りの本はどこにいったのか?事件の謎の鍵を握ると見做された人物が次々と殺され、捜査は完全に行き詰まったかにみえたが......。上司との対立がもとで捜査から外された刑事が秘められた”過去”を掘り出した時、意外な犯人の姿が浮かび上がる!気鋭の作家が放つ話題の長編ミステリー!!

角川文庫(本のカバーから引用)

第1作の「死者の木霊」で、僕は「竹村岩男」という、魅力的な田舎刑事を主人公にして、それなりの成功を収めた。

それに味をしめたわけではないが、「後鳥羽伝説殺人事件でも、主人公に「野上」という、広島県三次(みよし)警察署の部長刑事を設定した。

野上部長長刑事が捜査に行き詰まり、上司の意志に逆らって暴走し、挫折する−−というパターンは、どことなく「死者の木霊」の竹村部長刑事のケースと似通っている。

書いている途中でそのことに気づいて、僕はいくぶん気がさした。そこで、ちょっと変化をつけるために、被害者の女性の兄という設定で、素人探偵を登場させてみたのである。

その素人探偵こそ、いまをときめく浅見光彦であった。(浅見光彦のミステリー紀行第1集)

事件を追って、8年前の宿帳を見るのですが、そこに面白い名前を発見しました。

佐藤 薫 (21)他1名

松岡妙子 (22)他1名

佐藤薫さんは、光彦をイメージしたという当時、廣済堂出版の編集者です。

松岡妙子さんも同様、徳間書店の編集者だった人です。

これを見たときは、思わず笑ってしまいました。

宿帳に面白い名前を見た!
後鳥羽伝説殺人事件 土田さん
 捜査本部の中に真犯人が!しかも捜査本部を取り仕切る立場にあるエリート警部。犯人が誰だったのかすっかり忘れていたのですが、読み進めているうちに思い出しました。

 桐山警部の登場場面を改めて読み返してみると、桐山が真犯人であることの伏線を読み取ることができます。そう思って読むからでしょうが。

 この作品を一言で表すと、「エリート桐山警部VS野上刑事」と言うところでしょうか。

私はエリートではないので、読みながら野上刑事に感情移入していました。せっかく見つけてきた手がかりを一蹴されたり、読んでいて腹立たしくもなってきました。ただ、それも、彼が犯人だったことの伏線のひとつだったわけです。

 人間誰しも過去にやましいことのひとつやふたつはあるものです。桐山警部の場合、そのあやまちが大きすぎたのでしょう。犯罪に類することですから。また、現在エリートコースに乗ってしまったがために、“過去のあやまち”が大きなものになってしまったと考えることができるでしょう。

 桐山警部が逮捕されて(エリートの失脚をまのあたりにして)、エリートにやっかみを持っている私は、正直言って“ざまぁ見ろ”と思いました。ただ同時に、誰でも後ろめたい過去があるのに、それをどうしても隠さなければならなかったために、殺人を重ねることになり、完全にリタイアしてしまったことに対して、(同情ではなく)哀れみも感じました。

     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 この作品は、「浅見光彦のデビュー作」として、あまりにも有名です。今や浅見光彦は内田作品になくてはならないキャラクターになっていますが、この作品を書いた段階で内田先生は、浅見シリーズを書こうという意識はなかったのではないでしょうか

 浅見光彦のこの作品での設定は、被害者(正法寺美也子)の学生時代の友人(浅見祐子)の兄です。登場の仕方は、野上刑事が8年前の事件にたどり着いて、浅見の自宅に事情を聞きに言ったとき、ほんの脇役・ちょい役という感じの出方でした。

 東京からわざわざ謹慎中の野上刑事のところを訪ね、一協力者からどんどん彼の重要度はアップしていきました。彼が持つ鋭い推理力と、警察庁刑事局長の弟という恵まれたバックによって。

 他の浅見シリーズが「浅見+ヒロイン」で展開されるのに対して、この作品にはヒロインは不在です。野上刑事と浅見の共演という感じで、「岡部+竹村」の共演に通じるものを感じました。

1998.9.27 土田

後鳥羽伝説殺人事件 しょう
 この本は、私が最初に読んだ本です。昭和62年に急性胃炎で入院したときでした。胃の痛みが収まればあとは退屈な時間が過ぎるばかりです。病院の売店に行って手当たり次第に本を読んだのですが、この本はそのときの1冊でした。

 というわけで、今回読んでみてほとんど覚えていないという有様で...楽しめました。(^o^)

 先生は「死者の木霊」の竹村とこの本の野上が似ているので、変化球のつもりで光彦を登場させたと言っていますが、完全に野上を凌いでいます。浅見光彦さっそうのデビュー作といってもいいんでしょうね。

あらためて光彦を見ると実に凛々しいですね!多少居候の卑屈?さがうかがえるものの、その推理力と行動力はさすがです。生まれついてのスターと言ってもいいような輝きがあります。

浅見家の雪江、兄・陽一郎も今とまったく変わらない役どころです。野上の妻・智子の人物描写もいいですね!このあたりに感心してしまいます。

 正法寺美也子が古書店で見つけた1冊の本が発端となり、それからまもなく絞殺されてしまう。次いで美也子を電車の中で目撃した富永も殺されてしまう。

それにしても美也子が駅の跨線橋で殺されてしまうという設定が凄いですね。およそ完全犯罪などなりたたないと思いますが、実はそうでなく計算づくの犯行だというのですから驚きです。

冒頭から二人も殺されてしまい犯人像も雲をつかむような訳の分からない話が続きます。犯人に近ずくたびに、次々と殺されてしまう。

一体全体どうなってるの?と思っていると光彦の推理で一気に解決してしまうんですよね。それも意外な人物が犯人なんです。

そこに至るまでの光彦と野上の絡みもおもしろい!

いやー、内田ミステリーの真骨頂ですね!おしろさの粋を集めた作品だと思います。

1998.10.24記