「もう1人の俺」

by ポンチさん      

世の中には、自分に似た人間が3人は、いるそうだ。今も、テレビで自分に似た人間を、日本中探している大学生のレポートを放送していた。俺は、その放送を、ぼんやりと見ながら、あの出来事を思い出していた。

その日俺は、すこぶる機嫌が悪かった。結婚するつもりで付き合っていた女と別れてしまったのだ。付き合って、2年とちょっと・・・・・・うまくいっていたはずだった。しかし、男と女なんて、些細な出来事で擦れ違っていくものなのだ。

俺と、早紀もそうだった。あれは、そう2ヶ月前の事だった。その日は、早紀の誕生日だった。俺と早紀は、いつもの駅で待ち合わせ、食事に出かけた。その日俺は、風邪の引き始めで、鼻が殆ど効かなかった。

早紀が、「今日約束通りにしてきたよ、どういつもと違うでしょ」と聞いてきたが、俺には全くわからない。髪形も変わっていないし、服も見たことのあるものだった。

「何??何が違うの??」と俺。「えっ??判らないの??信じられない・・・・
約束だったでしょ??」と、早紀。「判るまで、教えてあげない。」俺は、しばらく考えたが、全然検討がつかない。「降参、教えてくれよ」と俺が言ったら・・・・・

早紀は「どうして??何で判らないの??」結局、そのまま教えてくれなかった。
それから、1週間後、早紀から電話があった。「判った??」と早紀「わかんねぇよ」と俺。俺はいいかげん、腹を立てていた。何の約束だったのか、忘れた俺も悪いが、言わない早紀にも腹が立った。「そっかぁ・・・・・判らないんだぁ」と早紀・・・・

「もう良いよ、教えてあげる・・・・」と早紀。「一体なんだったんだよ??」と俺。
「こんな約束してたのよ。<あのね・・・・・・私今まで好きになった事のある人と1年続いた事ないの。だから、諒ちゃんと1年続いたら、誕生日に貰った香水、1年後の誕生日に付けるね。それまで、使わない。二人が仲良くできるおまじない。>

2度目の誕生日・……迎えられたのに・・・・・・覚えてなかったのね・・・・・私、この前の誕生日つけていたのよ、あの香水。」「ごめん。忘れてた。でも・・・・・・そんな事ぐらいで、すねるなよ。それに、俺風邪引きだったしな・・・・」と俺。

「そっか・・・・諒ちゃん、風邪引いてたんだものね、仕方・・・・ないよね・・・それにそんな前の約束覚えている方がおかしいよね・・・」と早紀、「そうだよ・・・・まったく」と俺

でも、それからというもの何かいい合いになる度に早紀は、黙りこくるようになった。
俺は、約束を忘れていたことをまだ、拗ねているだけだと思っていた。そのうち、機嫌も直ると思っていた。まさか、あんなこと言い出すなんて・・・・・


「諒ちゃん、話があるの」と早紀、「何??」と俺。「私、諒ちゃんと別れたいの」と早紀

「なっ!一体どういう事だよ。」「ごめん・・…別れたいというより、いろいろ考えたい事があって・・・・・1人に戻ろうと思ったの。」「もっと、ちゃんと説明しろよ」「どう言ったらいいのか・・・・わからないけど・・・・・ごめんなさい・・・。」「説明できないのに、別れたいのか??」「うん・・・・・ごめん」「ごめん…じゃ判らないだろ。」「ごめんなさい・・・・」「あぁっもう、勝手にしろ!!」俺は、店を飛び出して、いらいらしながら、一人歩いていた。「一体、何だってんだよぉ・・・訳わかんないぞ・・・ったく」ぶつぶついいながら、歩いていてた俺はふと、目にとまった店に入った。見た事のない店だった。「何時の間に、こんなとこに店できたんだ??」その店は、変な雰囲気のある店だった。中は、薄暗くて何かの煙だけがゆらゆら揺れていた。

店のマスターらしき男が、ふいに言った。「何にします??」「えっあっ、水割り」と俺。「うちはスナックではありません。願い事を叶える店です。何を願います??」とマスター。新手の商売かと思い、俺は冗談で「2ヶ月前の早紀の誕生日の日に戻りてぇ」と言った。

「わかりました。では、あの扉の向こうの鏡に向って、こひつみみさあ わさだない。2ヶ月前の早紀の誕生日 と唱えてください。」

「えっ??何だって??こここひひつみ・・・・みあさ?? わわさささだなないぃぃ?なんだそれ     ??」「とにかく、そう言ってください。言ってくださらなければ、願いは叶いませんよ。」「どうせ、願いは聞き届けられませんでした。な〜〜〜んて言って、お終いだろ??」俺は、面白半分で、扉の向こうに行ってみた。

鏡が、ある。俺は、言われた通りに言ってみた。「こひつみみさあ わさだない 2ヶ月前の早紀の誕生日。」と・・・・言った途端・・・・俺は気を失っていた。

気が付くと、そこは、俺の部屋だった。昨日の店は、変なとこだったな・・・・・などと思いながらテレビを点けた俺は、愕然とした。テレビでは、ワイドショーを放送していた。たしか、今日は、昨日の続きなら、6月25日。でも、テレビでは、4月24日だった。そんな馬鹿な・・・・・

今日が4月24日なわけない・・・・・昨日のあの呪文が、本当に過去に行くものだったなんて信じられない。でもたしかに、世の中は、4月24日だった。届いていた新聞も、4月24日だった。頭が混乱しながらも、俺は変な事に気が付いた。この部屋は俺の一人暮しだ、俺が郵便受けに取りに行ってもいない新聞がどうして部屋の中にあるんだ??よく、周りを見回してみると流しには、食事の後が残っており、洗濯物も干してあった。一体・・・・・・ここは、
何処なんだ??俺は、過去に行ったのではなく、異次元に来てしまったのか??

ふと、時計に目をやると、もう早紀との待ち合わせの時間が迫ってきていた。俺は、とりあえず、待ち合わせ場所にだけ行ってみようと思った。外で、どんなことが起こるのか・・・・・・・・俺は、ドキドキしながら外に出てみた。いつもと変わりのない景色、やっぱり俺は過去に来たのか??そんなことを考えながら、駅に急いだ。駅への近道
を歩いていると、アパートの大家さんとすれ違った。大家さんは、俺の顔を見て、ものすごく驚いた顔をした。俺は、気になって大家さんに、「俺の顔なんか変ですか??」と聞いてみた。

大家さんは、「だって、あなた原沢諒一君でしょ??さっきもすれ違ったでしょ??」と言ったのだ。
さっき・・・・・俺と・・・・すれ違った????ってどういう意味だ????俺は、「そんな・・・・人違いじゃないですか??」と聞いてみた。そしたら、大家さんは、「ひと違いじゅないわよ、だって原沢君って声かけたら、こんにちはって言ったじゃないの、あなた」俺は、何が何だかわからなくなって、大家さんに「すみません」とだけ答えた。

取りに行っていない新聞、食べた後のある流し、干した記憶のない洗濯物、そしてすれ違った記憶のない大家さん・・・・・・ここには、もう一人の俺がいる・・・・・俺は確信した。ちょうど2ヶ月前の俺。そう、2ヶ月前の俺がいるんだ・・・・・ん??待てよ・・・・その2ヶ月前の俺にここにいるこの俺がもし出会ったら・・・・どういうことになるのか???

第一、俺がここにいること自体、歴史を変えてしまうことにならないか??元に戻るには、どうしたら・・・・・と考えていたら俺がここに来た目的を思い出した。早紀の誕生日に、あの約束を覚えていると言うこと・・・・・そう・・・そうだった・・・・でもそれもしてはいけないことじゃないのか????俺はここで、いろいろ考えていても煮詰まるだけだと思い、待ち合わせの駅に急いだ。

駅に着くと、もう一人の俺と早紀が腕を組んで歩いていた。食事に行くレストランに向かっている・・・・・とそう直感した俺は、二人の後をつけた。案の定、例のレストランに入った。

俺は、思わず、早紀の話は、覚えていると言えと・・・言いそうになったが、いや言ってはいけないと思い直して、二人の様子を伺っていた。早紀が例の話をする頃が近づいてくる、俺は、やっばり言うべきか・・・・ぐちぐち、考えていたらもう一人の俺がこっちに向かって来る。どうしよう・・・・・もし、俺に気付いたらどうしよう・・・・・
もう一人の俺は、すれ違いざまにうつむいている俺に気づいた。じっと俺を見る。
そして、何かにはじかれたように、俺を見た・・・・あっ!!と叫ぶもう一人の俺・・・・・
お互いに相手を見た後・・・俺は目の前がまっ白になり、気を失った。

目が覚めた時、俺はあの店の辺りで潰れて眠っていた。あれは、夢???だったのか??
俺が見た店は、影も形もなかった。
あの後、早紀と俺は、話合い仲直りをして、もうすぐ結婚式を迎える。

早紀に別れるつもりはないことを話し、何故一人になりたくなったのか聞いた。
最初は、話すつもりはない・・・・・と言われたが、根気よく聞いてみたら、俺が約束を忘れた事が許せなかったのではなく、「そんなことぐらい」と言われた事が寂しかったと。

そして、別れたいと言った時、諒ちゃんは、怒ってばかりで私の気持ちを聞こうとしなかったと。
もし、あの時俺がもう一人の俺に「覚えていると言え」と話していたら、どうなっていたのだろう。俺は、きっと早紀のこんな思いには気が付かなかったし、覚えてもいない話をこの先振られて、困ったことだろう。

あの出来事(夢)があったから、俺は早紀の気持ちを聞けることができたような気がするのだ。
でも、あの出来事は本当に夢??だったのだろうか??俺が行った場所は、本当は過去などではなく、異次元で、俺と早紀に似た人間が同じように付き合っていただけだとしたら。
本当は、現実だと思っているここが異次元で、俺は、そのまま迷い込んでいるだけだとしたら。

俺は、一体・・・・・・

1999.10.21