「幸せな時間」

by ポンチさん      

俺とあいつは何処にでもいるカップルだった。
このままずっとそうだと思っていた。
少なくとも、あの日まではそう信じていた。
付き合ってもうすぐ3年という頃、世間では倦怠期だとか言うそうだ。
友達には、「よく飽きないな?」言われたが、
そんな事感じたことなどなかった。
俺は、あいつを愛していたし、あいつもそうだと思っていた。
実際そうだったし、俺は幸せだった。

あの頃、俺はめちゃくちゃ仕事が忙しかった。
殺人的なスケジュールの中、あいつと会う時間は、殆ど取れなかった。
自宅に戻るのはいつも、午前2:00を廻っていた。
始めの頃は、あいつの入れている留守電を聞いて、電話もしていた。
だが、だんだんしなくなっていった。いや、出来なかったんだ。
その内あいつからの電話も、少なくなり、あれ程煩く鳴っていた
携帯も静かになった。
それでも・…俺たちが駄目になるなんて思ってもいなかった。
どこかで、自信があったのかもしれない。少しぐらい会えなくても、
大丈夫だという自分勝手な自信。
俺は、全くあいつに連絡しなくなっていた。

そしてそれは、全く予期していない出来事だった。
突然あいつが、社にやってきたのだ。
あいつに会うのは、何ヶ月ぶりかだった。
俺:「どうしたんだよ。今残業中なんだよ」
あいつ:「わかってるわ。近くまで来たから寄ってみただけよ」
俺:「ごめんな。その内時間作るからな」
あいつ:「今日、時間つくれないかな・・・・」
俺:「えっ??」
あいつ:「こんなお願いは2度としないから」
俺:「わかった。後、30分ぐらいしたら、もう一度下に来るよ」
俺は、そう約束して、デスクに戻った。
きっかり、30分後に下に下りると、あいつはいなかった。
あいつの携帯に電話すると
「今、あの噴水のある公園にいるの。今からこれない?」
その場所は、二人が出会った場所だった。
俺が、その公園に行くと、あいつは噴水の前でこう言った。
「ここで、別れたかったの。ここで、出会ったのが3年前の
今日だからここでさよならしたかったの」
俺は、自分の耳を疑った。えっ??別れる??
 俺はそんな話聞いてないぞ。
俺:「何訳のわかんない事言ってるんだよ。いいかげんにしろ」
あいつ:「いいかげんな話でもないし、私、真剣よ」
俺:「・・・・・・・どうして??」
あいつ:「待つのに疲れたの。我慢しているのに疲れたの。
 私、本当は寂しがり屋なの」
俺:「会えなかったからか?」
あいつ:「そうじゃないの。ただ私の寂しさをわかって欲しかったの」
あいつ:「ごめんなさい。もう限界。・・・・・さよなら。」
俺:「待てよ。ちゃんと話そう。」
あいつ:「もう・…話す事なんて何もない。ごめんなさい。」
そう言ったまま、あいつは、本当に何も話さなくなってしまった。
俺には、どうしてもわからなかった。
別れたい理由が、会えなかったからじゃないというのが。
じゃあ何だと言うのだ。
俺は、訳がわからないまま、あいつを自宅に送っていった。
そして、そのまま俺たちは2度と会う事はなかった。

あの日から、俺はあいつに何度も電話をした。
でも・・・・いつも帰ってくる答えは同じだった。「さようなら」
俺は、何処にでもいる幸せなカップルだと思っていた。
でも、あいつはそう思ってはいなかったらしいのだ。
あいつはこうも言っていた。「あなたは、私を見ていなかった」
「あなたに、見えていたのは、幸せな自分だけ
そして、そのためなら誰でよかったのよ」
俺には、この言葉の意味かがどうしても理解出来なかった。
でも・…仕事も一段落付き、冷静になって考えてみると、
あいつの言っていた意味が少しだけわかったような気がするのだ。
俺は、あいつを愛していると言いながらあいつが何を思っているのか、
考えていなかった。いや、仕事が忙しくなる前からそうだった。
俺が愛しているのだから、あいつもそうだと決め付けていやしなかったか。
そもそも、俺が愛していたのは、自分自身ではなかったか。
自分ひとりで、幸せな時間に酔っていただけじゃなかったのか。

俺は、そんな事を考えながら、目の前の噴水のある公園を見つめていた。

1999.9.4