P・コーンウェルの「死因」を読んでいたら、青酸ガスの記述がありました。
そこで思い出したのが「ミステリーを科学したら」(由良三郎)です。
この方は1921年、東京銀座生まれ。東京大学医学部卒。横浜市大細菌学教授、東京大学医科学研究所ウイルス研究部教授を歴任。1984年、「運命交響曲殺人事件」で第2回サントリーミステリー大賞受賞。主な作品に「殺人協奏曲ホ短調」「象牙の塔の殺意」などがある。
私が読んだのは標題の作品のほか「聖域の殺人カルテ」「血液偽装殺人事件」です。「ミステリーを科学したら」の解説は島田荘司ですが、彼はそのなかで「こういう人がピアノを弾くとなると、どうしても高木彬光の産んだ名探偵神津恭介を連想してしまう。」と書います。
さて、本題に入ります。「青酸カリは毒薬の代表格であるが、これがどうやって人を殺すかについては、専門の推理作家を含め、案外正確な認識がされていない。青酸化合物が嚥下によって劇薬となるメカニズムは、これが胃中に入ると、胃液の酸性にあって瞬間的に加水分解が行われ、青酸ガスが発生し、血中に入るから呼吸中毒となるためである。」
こういうことが作家の間で次第に忘れられ、劇薬であるから、とにかく体内に送り込めばその人物を殺すだろうという記憶違いが往々にして起きるようになりました。
しかし、青酸カリ溶液を皮下または筋注しても、血液は弱アルカリ性なので加水分解が行われず、したがって青酸ガスも発生せず、腐食性があるので激痛があるのみで死には至らないということになります。
嚥下による以外の方法で青酸カリを送り込み、唯一その人物を殺しそうな場所というと、女性の膣以外にはないという。胃以外でははっきり酸性であり、しかも粘膜が露出した場所、つまり胃内と同等の条件の場所というとここしかない。ここはPH4で、PH1の胃袋内より酸性が弱いのですが、ここなら理論的にこの持ち主を即死に導くことができそうです。
またミステリーのなかには、戦争末期自決用に配った青酸カリを戦後何十年も保管していて、これを殺人に使うというのをたまに見かけますが、しかし青酸カリは、薬包紙に包んだり、多少密閉度が高いという程度の容器に入れておくだけでは、次第に空気中の炭酸ガスによって2、3年のうちに炭酸化し、無害になってしまうということです。
どうやって入手したかということは案外ぞんざいに書かれていて、誰でもいつでも手に入れることができるような錯覚があるかもしれませんね。
こういうことがきちんと書かれているということが、小説におけるリアリズムというものではないでしょうか?
ところで、私のHPとリンクさせていただいている小田さんのページ
http://www.hi-net.ne.jp/~ma/
ここの「健康とからだ」というコーナーで「青酸中毒」「砒素中毒」「アジ化ナトリウム中毒」「トリカブト中毒」について、詳細に書かれていました。
以下、引用させていただきます。
青酸中毒
最近、青酸による死亡事故がおこりました。青酸(シアン化合物)は微量で細胞呼吸を抑制して呼吸停止から死に到る猛毒であるのが知られております。青酸中毒というのはどんなものであるかおさらいしてみます。
青酸はどんなものに含まれておりますか?
殺虫剤、殺鼠剤
金属の研磨剤、電気メッキ溶液
冶金、写真工程
月桂樹、
どうして中毒がおこりますか?
シアン(青酸)は細胞の中のミトコンドリアのチトクローム酸化酵素の3価の鉄イオンと結合して細胞の呼吸を障害します。そのため、細胞の中の呼吸が阻害されて、体は低酸素の状態に陥って、急激な機能停止となります。酸素不足が脳にきますと、呼吸が抑制され、痙攣がおき、呼吸停止となります。
青酸塩類(青酸カリ、青酸ソーダ)の致死量は経口摂取で200-300mg・青酸の致死量は50mgとされております。
青酸中毒の症状としてはどんなものがありますか?
大量に飲んだ場合とか青酸ガスの場合には、突然意識を失って、呼吸が停止し、死亡します。
青酸を飲むと症状が出るのに数分かかって死亡まで数時間かかります。
まずのどにやけるような苦みとしびれ感がでてきて、
涎が出て、吐き気から嘔吐をきたします。
呼気や吐物にはクヘントウ臭(bitter almond)がします。
興奮・めまい・下顎の硬直感が出てきます。
頻呼吸から呼吸困難となります。
初期には血圧が上がります。
脈が早くなって、不整脈も出てきます。
意識障害とともに痙攣を引き起こします。
発汗が著明で、瞳孔が散大し、対光反射が消失します。
皮膚はピンク色を示します。
最後は呼吸停止で死亡します。
治療方法はどうするのですか?
1.酸素(100%)吸入を速やかにおこなう。呼吸をしていなかったら人工呼吸をおこなう。
2.亜硝酸アミルを吸入させる。
3.3%亜硝酸ナトリウム10mlを静注する(3分間で)
4.25%チオ硫酸ナトリウム50mlを静注する(10分以上で)
5.以上で効果がなかったら3.4.の半分をもう一度おこなう。
このほかはその場その場の対症療法をおこなう。
どのようなことに注意すればいいですか?
できるだけ早く救急病院へ搬送する。はやい治療開始が救命率を高めます。
原因物質不明のときはその探索をおこなう。
吐物や胃の内容物を保存しておく。
血液・尿も保存しておく。
10円玉を吐物や胃の内容物につけると新しい硬貨のように光ります。
4時間以上の経過をとるものは生存の可能性があります。
|