江差殺人事件

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第3章その5

「はい、瓶子岩殺人事件捜査本部・西平です」その電話があったのは氷室たちが立ち去ってからまもなくのことであった。

「あのー、そちらが捜査本部なんですよね」

「はい、そうですよ。担当の西平です」このうら若き女性の声に西平は閃くものがあったので、西平は隣のKIYO巡査部長に目配せして逆探知を命じた。しかしその必要はなかった。電話のディスプレィに携帯電話の番号が表示されていた。ここ江差ではPHSはエリア外である。

「あのー、私見たんです。」

「えっ、なにを見たんですか?もしもし聞こえてますか?」

「あの殺された方が『文殊』の前で男の人と会っているのをです」

「そうですか!あなたは今どちらにいらっしゃいますか?」

「あ、でもただ会っていただけで事件とは関係ないかもしれません」

「それはこちらで判断します。今から伺って詳しいお話を聞きたいんですが。どうでしょう?」

「それは困ります。でも私30日にお客様をご案内して『文殊』に行ったんですよね。そのときちょうど殺された、あ、細谷さんていう方が車から降りてくるところでした。で、そのときにランドクルーザーで来た大きな男の人となにやら話し込んでいました。この人上ノ国の人だと思います。で、帰りに車があったのでおかしいなと思ってたんですよ。そうしたら新聞にあの方の写真が出てて...それで電話したんです。でもそれ以上のことは分かりません。では失礼します」

「あっ、ちょっと待ってください。それは何時頃のことですか?」西平も必死であった。

「夕方4時頃でした。では」電話はそこで切れた。

「至急この電話番号の持ち主を調べてくれ!それと江差、上ノ国のランクルの持ち主をリストアップしてくれないか」西平はKIYO巡査部長に命じた。さきほどの氷室といい、この電話といい確実に捜査が進展しているという手応えを西平は感じていた。

その頃、圭介と百合子は帰路についていた。江差から乙部、熊石と日本海側を北上し、熊石から「雲石峠」を経て八雲に抜けるのである。札幌に向かうにはこのルートのほかに熊石からさらに日本海側を北上し、大成、北檜山から今金、長万部を通る方法がある。日中で急いでいないのならこのルートを選んでいたであろう。なにしろこの日本海側の海には様々な奇岩を見ることができ、楽しいものである。

大成には太田神社がある。断崖絶壁を登り切ったところにある神社で最後はロープをたぐり寄せてはじめて参拝できるというすさまじい場所にある。それに久遠(くどう)あたりの...

「あっ、そうか!」圭介はそう叫ぶと車を急停車した。たちまちけたたましいクラクションの音とともにトラックが通り過ぎて行った。助手席の男がこちらを向いて罵声を浴びせているのが見えた。

「ちょっと、どうしたのよ。圭介!」百合子もこちらを睨んでいる。そんなことにはおかまいなしに「さっきの細谷のメッセージを見せてくれないか」と言った。

百合子は一瞬呆気にとられた顔をしてそれでも「ねえ、なにか分かったの?」と言いながら圭介の横顔を伺いながらコピーを渡してくれた。

「やっぱりそうか!句読点だよ!久遠と句読点だ!」圭介は叫んでいた。

「は、なにそれ?」

「あ、いや。君がメッセージなら法則性があると言っていただろう。その法則が句読点だよ。今、大成の久遠のことを思い浮かべながら閃いた。ほれ、見てごらん。このメッセージはクエスチョン・マークやら中点で終わっているのもあればまるで終わっているのもあるだろう?でね、まるで終わっているところの先頭の文字を拾い読みしてごらん。」圭介はその行を鉛筆でマーキングして百合子に見せた。

歴史と文化とロマンの町江差...でもここは違うのだろうか?
竜胆の紋はサハリンにはあったがここにはないようだ。
義経伝説はやはり寿都、平取が本命か?
大陸に渡る前にここにも来ていたはずなんだが...残念ながら痕跡が...
ジンギスカン伝説は所詮妄想の産物なのだろうか?
に呑まれて開陽丸はあえなく江差沖に沈んでしまったのも今は昔のことである。
あの最新式の軍艦が江差の海の藻屑と消えたとき...
の旗印を掲げて戦った元新撰組副長の土方と榎本武揚はなにを思ったのか。
人の胸の内を思うと叫びたいような衝動にかられる。
つかわしくない、死に様か?いやそうではない...。
土方は死ぬつもりでこの蝦夷地に渡ってきたのだ...
されてよかったのかもしれない。
れど...やはり悔いは残る。
榎本はその後新政府において重要な地位を得たのだが...
きしに埋没したのは土方だけだったのだろうか。
だ、今は亡き土方の冥福を祈るのみ。

「笹浪誠二に殺された...きゃー誰この人?」百合子は叫んだ。

「いや、もちろん僕にもこの笹浪誠二が誰かなんて分かってはいないけど、君の言ったとおりこれは細谷からのメッセージと考えていいだろうね。でも、この『殺された』というのが少しひっかかるね。当然『殺される』と書くところなんだが...」

「でも凄いわ、圭介。これだって立派な手がかりになるわ。警察に教えてあげましょうか?」

「うん、そうだね。電話するよ」圭介はそう言いながら携帯から江差署に電話した。「もしもし、西平刑事をお願いします。えっ、外勤している。そうしたら戻られたら電話いただけますか?あ、はい、直接お話ししたいんです。はい、ではよろしくお願いします」西平はその頃、電話の持ち主に接触していたのだが圭介は当然知らない。

by しょう  1999.11. 3 

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