江差殺人事件

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第2章その2

「ヨシさん」ちょっといいかい」中富交通係長が西平のところに来て、そう言った。西平だから「ニシさん」と呼びそうなもんだが、親しい人は名前の「義信(よしのぶ)」から「ヨシさん」と呼ぶ。

「うん、なんだい?なかさん」

「いやね、例の事件に関係があるような気がするんだけど、上ノ国の道の駅駐車場に不審車両が放置されているという連絡があったんだ。それで、ナンバーを照会したところ、これがレンタカーだったんだよ。おかしいだろう?」

「おかしいというのも状況によるね。レンタカーなら観光客だろうけど、なんで不審なんだ。」

「ああ、そう来ると思った。」中富は笑いながら続きを話した。

「この車が実は3日前からずっと放置さているんだな。」

「なに!それは本当か?詳しく話してくれ。」3日前なら被害者の死亡推定日時と符号する。

「上ノ国の道の駅は知ってるだろう?あそこの駐車場とレストランが離れているだろう。だから、あまり気にしていなかったようなんだが、さすがに3日も放置されていると気味が悪いよな。それで、白石めぐみという従業員が上ノ国駐在に連絡してきたんだ。」

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手前が駐車場。海側がレストラン「文珠」(上ノ国町)

「道の駅」は建設省道路局が進めている施策で現在「道の駅」は工事中も含めて全国で470箇所あり、2000年初頭には1000か所を目指すそうである。「休憩機能」「情報交流機能」「地域連係機能」を備えた多機能型休憩施設をいう。ここ上ノ国の道の駅「文珠(もんじゅ)」もそのひとつである。レストラン「文珠」の前浜一帯は、旧地名を「文珠浜」と言うのだが、この「文珠浜」の由来については、地元の漁師が漁に出て、船の上から前浜を眺めると、眼下の岩が「文珠菩薩」に似ていることや、古い記録によると、岩陰に「文珠菩薩」の像が奉られていたとも伝えられていることからきているようだ。

「警察は予算がないから、ただ、不審というだけではレッカーもできないんだな。その車が交通の妨げになっているとか、よっぼどひどい状況であれば別だがね。でも、今回はレンタカー会社で引き取りに来るということだ。なにしろ昨日返すことになっていたようだ。どうする?」中富はそう言った。

「それはありがたい!よし鑑識と一緒に行くよ。もし被害者が乗り回していた車なら身元が判明するし、走行距離から行動も推測できるし捜査が大きく前進するよ。ありがとう、よく知らせてくれた。」

「ところで、そのレンタカー会社の人間はいつ来るんだ。」西平が中富に尋ねた。

「ああ、今朝9時頃連絡したから、午後2時頃には着くだろう。札幌のトヨタレンタリースの担当はN2さんとか言っていたね。まっすぐ現場に向かうそうだ。」

「今、1時か。まだ時間があるな。よし、任意提出書を作っておくか。」任意提出とは言っても犯罪の証拠となれば話は別である。これはなにがなんでも押収しなければならない。

「萩原巡査部長!写真撮影と指紋採取は現場でやろう。後は署に戻ってからじっくりやろうな。」

「はい、分かりました。車の配車要求をだしておきます。」

西平、中富、akkoと3人連れだって、2時過ぎに署のパトカーで上ノ国「文珠」に向かった。

「まだ、来ていないようだな。よし開けるぞ。」本来であれば合い鍵を待つところだが、この車が事件とはまったく無関係であれば時間の無駄である。しかし、この場合、警察官職務執行法に違反していることは西平も十分承知している。西平は少し太めの針金の先端を曲げてウインドウの隙間から差し入れて引き上げるといとも簡単にドアが開いた。車の鍵というのはどうにかならないものだろうか。この方法だと車には傷は残らないが、ドライバーを差し込んで思い切り回すとドアは開く。これは車上荒らしが使うやり方だが、鍵が壊れてしまってまったく用をなさなくなる。

西平は白手袋をはめてダッシュボードを開いてみた。そこには車検証の入った袋、ノート、デジタルカメラ、財布、携帯電話が残されていた。財布の中には免許証が入っていた。

埼玉県越谷市、細谷文彦、昭和39年生。写真を見ると確かにあの変死体の顔がそこにあった。頭皮が剥落した顔しか見ていなかったが、この写真を見る限りでは元々髪は薄かったようだ。

西平は、今出したものをすべてダッシュボードに戻して、トヨタレンタリースの担当、N2を待つことにした。

「なかさん、ここにいてトヨタレンタリースの担当が来たら教えてくれないか。僕は、白石めぐみに職質して来るよ。萩原巡査部長、君も一緒に来てくれ。」西平は中富にそう言い残すと下のレストランへ歩いていった。」

by しょう  1999.10.20 

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